目からウロコの仕事力

100年以上続く長寿企業に学ぶ ──「諸行無常」「常新老舗」

中央学術研究所客員研究員 佐藤武男
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革新と歴史

長寿企業にも課題はあります。主な課題は、これまでの顧客重視、本業重視、品質本位、従業員重視などは守りつつ、ナンバーワンになる得意分野を築き、経営資源を集中投資する、デジタルネットワークへの機敏な対応、国際標準獲得への積極的な対応、省エネへの環境対策、リーダーの強い情熱、発想の創意工夫やリスクに強い体質づくりなどです。

業歴450年の「虎屋」の事例を基に考えてみましょう。羊羹など高級和菓子で有名な虎屋は、創業が1562年と室町時代。桶狭間の戦いの2年後のことです。この時代から歴代天皇や宮家への御所御用菓子屋として京都で定着し、「みやび」な文化を伝える和菓子として評価を確立してきました。明治時代、天皇の東京遷都に伴い、東京に本店を移しました。経営理念は「おいしい和菓子を喜んで召し上がっていただく。和菓子を通して日本の文化や魅力を伝える」ことです。

虎屋は伝統の味であるあんこをベースにした和菓子に安住することなく、時代や若い人にもっと受け入れてもらうよう、常に革新を図っています。例えば、六本木ヒルズ内に「TORAYA CAFÉ」を出店し、菓子のコンセプトを「和と洋の良さを引き出しながら、和菓子のアイデンティティーを持ったケーキや菓子」としました。あんことチョコレートを混ぜて作った「あずきとカカオのフォンダン」はチョコの味をベースにあずきの味もして味わい深く濃厚なケーキです。形は洋菓子でも、和菓子の伝統である「あん」や「小豆」が生かされています。

虎屋には、単に流行を取り入れるのではなく、新しいものを取り入れながらも、その本流や伝統を変えず、現代に合った和の価値を発信していくという意気込みがうかがえます。1805年に「掟書」が作られ、社員は製造品質の維持や社員同士のチームワーク、指導教育の徹底、自己研鑽など自主性も重んじ、家訓を守りつつ、時代の変化に対応してきました。常に「革新」を続けてきたので、「老舗」企業として生き残ってきたのです。

「革新」と「老舗」は矛盾せずに併存できるのです。まさに「常新老舗」(老舗は常に新しい)です。

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