日本仏教を形づくった僧侶たち

「源信」―『往生要集』で地獄と極楽を表わした僧―

作家 武田鏡村
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極楽浄土を求め往生する

源信は、地獄を等活(とうかつ)・黒縄(こくじょう)・衆合(しゅうごう)・叫喚(きょうかん)・大叫喚・焦熱(しょうねつ)・大焦熱・無間(むけん)(阿鼻(あび))の八つに分けて、ひとつの地獄にそれぞれ16の副地獄があり、総計では128の地獄があるとしました。
源信が描いた地獄の様相の2、3を見てみましょう。

殺生の罪をおかした亡者がいく等活地獄では、すさまじい形相をした獄卒に鉄棒で頭から足まで打たれる。血肉は飛びちり、骨が粉々に打ち砕かれる。だが、それで刑が終わったわけではない。ふたたび元の身体に戻されるや、また獄卒の鉄棒によって身が砕かれる。それが無限にくり返される。

盗みをおかした者がおちる黒縄地獄では、熱鉄の上に寝かされて、焼けただれた鉄縄で身体が打ちつけられて、切り裂かれる。また、煮えたぎる釜に落とされて、地獄の鬼に食われる。

邪淫の罪人がいく衆合地獄は、すさまじい。男の亡者は刀の形をした葉の林に連れて置かれる。木の上を見あげると、美しい女がいる。男は女を求めて木に登ろうとすると、木の葉はすべて鋭利な刃となって、男の身体を引き裂いていく。
男は血まみれになって、木の上にたどりつくが、女はいつの間にか地上に降りていて、
「あなたのために地獄におちたのよ。どうして私を抱いてくださらないの」
女の呼びかけに、男はまた欲情をもよおして、無我夢中で木から降りる。すると今度は葉の刃が上を向いて、降りようとする男の身体をずたずたに切り裂く。邪淫をおかした亡者は、何百年何千億年も、このくり返しが行なわれる──。

源信が描いた地獄には、太宰治が地獄絵で見た血の池、針の山などの、ありとあらゆる人間の痛苦と恐怖があますところなく設定されています。
しかも、この地獄のほかにも餓鬼・畜生・阿修羅・人間・天の六道を想定して、そこを輪廻するとしています。

こうした恐ろしい地獄と六道を描いた源信は、一転して極楽浄土を展開して、10の楽を説きます。
まず浄土の菩薩たちが来迎して手を差しのべる「聖衆(しょうじゅ)来迎」、蓮華が開いて宝飾に飾られる「蓮華初開(しょかい)」、32の仏の相をそなえる「身相神通(しんそうじんづう)」、五官の色、声、味、香、触がすぐれて極楽の様相をとらえることができる「五妙境界(ごみょうきょうがい)」が描かれます。

さらに、極楽の快楽を無限に享受できる「快楽無退(けらくむたい)」、友や妻子などと自由に会うことができる「引接結縁(いんじょうきちえん)」、菩薩たちと会うことができる「聖衆倶会(しょうじゅくえ)」、阿弥陀仏を目として仏の教えを聞くことができる「見仏聞法(けんぶつもんぽう)」、阿弥陀仏に供養できる「随心供仏(ずいしんくぶつ)」、仏道を修して悟りを得ることができる「増進(ぞうしん)仏道」の十の極楽の様相です。
『往生要集』は、地獄・六道を厭離して、極楽を求め、そこに往生するために観想の方法が説かれています。

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