目からウロコの仕事力

正しい経済活動は、仏道修行に通じる

中央学術研究所客員研究員 佐藤武男
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正しい心と手段で

一方、お金に執着したり、財や富で享楽的な消費や贅沢にふけったりせず、つつましく暮らし、困っている人々に布施することの重要性を説いています。
ですから、私は部下に、仏教に基づいた正しい心と手段で仕事に臨むことと、試行錯誤しながら未来に挑戦し、また、付加価値が生まれるように粘り強く提案・努力し、顧客から満足いただいた結果、利益が得られるのだと指導しています。
約束を守らないなどの自分本位な行動は、顧客や会社の信用を失います。

社会で必要な職業は貴賤上下の区別なく尊いものです。社会での使命・意義を認識し、人さまのために努力・精励することは、仏道修行につながります。
経営陣が心から人さまのために考え、世の中に貢献する意識を持つ。また、社員の成長や心の高まりを期待するところに、個々がたとえ苦しくても必ずやり遂げようという意識が生まれると実感しています。

日本の大乗仏教は、経済活動からの利潤獲得を認めますが、同時に正しい心で勤勉に励み、倹約して浪費を戒め、中道の精神を持ち、布施などの六波羅蜜(ろくはらみつ)を実践することの重要性を説いています。
日本ではこうした大乗仏教という精神的支柱が浸透したおかげで、昔から仕事に対して一生懸命取り組み、改善し、新しい商品などを開発し、顧客の満足をわが喜びとする精神が息づいています。

しかし、近代化が進むにつれて信仰や倫理の要素が薄れ、収益至上主義的傾向が強くなり、営利追求が自己目的化してきました。欧米諸国も同様です。
近代化により、組織や企業活動の合理化が進み、専門分化し、競争が激化してくると、合理的思考や利益追求がすべてに優先されて、宗教的・倫理的な行動規範が二の次になりがちです。

宗教的・倫理的な行動規範を持っていないと、「儲けるためには手段を問わない」「儲けるためなら何をしても許される」という風潮がはびこり、正常な組織の規律が崩れ、コンプライアンス違反などを起こします。
社会から批判を浴び、その結果、業績悪化や倒産した事例は数えきれず、企業の不祥事は今も後を絶ちません。

私たちは、大乗仏教の土壌の中で、どのような職業であれ、高い志を持って、その仕事をとことん考える。そして技術を磨き、良い製品・サービスを作り出し、お客さまに喜ばれるように努力・精進を重ねていくことが大事です。
すると、次第に仏道と同じ無心の境地になり、大局に立って物事の本質が見えるようになるばかりか、人間的成長にもつながるのです。

中央学術研究所客員研究員
佐藤武男(さとう たけお)
1954年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、三菱銀行に入行。香港や米国などの海外勤務を経て、三菱東京UFJ銀行外為事務部長を務める。また、貿易電子化諮問委員会の日本代表を6年間務めた。中央学術研究所客員研究員。現在はグローブシップ株式会社常務取締役管理本部長。
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