目からウロコの仕事力

先入観のメガネ、外してみませんか ―「八正道」

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現場の目線に立ち、見えるものとは

自動車メーカーとして世界一のトヨタは、「モノづくりは人づくり」というくらい人材育成や理念に定評があります。トヨタウェイ(経営哲学)は、「挑戦」(Challenge)、「改善」(Kaizen)、「現地現物」(Genchi Genbutu)、「チームワーク」(Team Work)、「尊敬」(Respect)と5つあります。
社員同士だけでなく、協力会社の社員にも尊敬の念を払って仕事をするよう徹底させたところにトヨタの人づくり強化への本気度がうかがえます。

また、問題解決には先入観を持たず、正しく現実を直視して「なぜを5回くり返す」中で、現場にこそ答えがあると、現場に足を運び、現場重視の経営方針を徹底しています。

建設機械メーカーの小松製作所は、建設機械の中の見えないところにGPS機能を装着し、世界のどこで、どう使われているか、一日何時間稼働しているかなどの情報を通信衛星経由で把握し、有望市場の開拓に活用しています。
故障回避といった事前対応、顧客や代理店へさまざまな情報収集をもとにした提案もできるようになり大ヒットしています。
GPS機能を付けたのは、もともとアジアで建設機械の盗難防止が目的でした。
でも、定期点検サービスのお知らせや修理や部品の事前手配、使用用途に応じた各種追加提案など、IT技術を現場重視の目線で活用したことが消費者の心をつかんだのです。

ベトナムのホンダは、「家族で乗れるオートバイを」という現地ニーズに合わせてシートを長くしたオートバイを販売。新車はベトナム人の年収とほぼ同じ約16万円と高価ですが、10年は壊れないという高い品質と信頼の裏付けもあって、70%以上のシェアを誇っています。
また、不具合が生じたときに近くの販売店ですぐに修理、点検が受けられるなど、他にないサービスも高評価の理由です。これは現場目線に立って考え、行動した成功例といえます。

仏教には「八正道(はっしょうどう)」(正見、正思=正思惟<しゆい>、正語、正行=正業、正命、正精進、正念、正定)という日常生活での八つの正しい心の持ち方や行動のあり方を説いた教えがあります。この中の「正見」「正思」「正定」は、現場を預かる仕事ではとりわけ意識して行動したいものです。

「正見」とは物事を正しく見極めること。
「正思」とは物事を正しく考えること。
「正定」は心を正しい状態に定め、決心したら周囲に惑わされずに集中すること。

この三つは密接につながっています。
すなわち先入観を持たず、偏見や自己中心的な見方や考え方をせず、事実を正しく見て、心に決めたら集中して仕事に取り組むことなのです。
仕事の現場で起きた現象を謙虚かつ客観的に見て考え、裏を取って客観的に検証・分析し、目標や方向性を決めたら集中して行動する―。そこに会社として進むべき道や戦略が見えてくることを肝に銘じておきたいものです。

中央学術研究所客員研究員
佐藤武男(さとう たけお)
1954年、東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、三菱銀行に入行。香港や米国などの海外勤務を経て、三菱東京UFJ銀行外為事務部長を務める。また、貿易電子化諮問委員会の日本代表を6年間務めた。中央学術研究所客員研究員。現在はグローブシップ株式会社常務取締役管理本部長。
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