日本仏教を形づくった僧侶たち

「行基」―仏教を民衆に開放し、 民衆を救った菩薩行―

作家 武田鏡村
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一途に民衆を思った生涯

しかし行基は、大僧正の任命には、それほど心を留めていなかったのです。
後年、行基の墓所となる竹林寺から発掘された「大僧正舎利瓶記[しゃりへいき]」には、

「しかりといえども(大僧正の任命)もって、[おも]うところにあらず。勤苦[きんく]いよいよ励む」

と、淡々とした行基の姿を伝えています。行基は以前とかわることなく、民衆のための社会事業に情熱を傾けつづけたのです。
奈良時代の民衆の中から輩出し、生前から「菩薩」と尊称された行基の真骨頂がここにあるようです。
しかし、生存中から「菩薩」と呼ばれた行基にも、老死は避けることができません。病をえた行基は、天平21年(749)2月2日、奈良の菅原寺で82歳の生涯を閉じました。その遺体は、師の道昭と同じく火葬にふされ、生駒山中の竹林寺に納められたのです。

奈良の大仏として親しまれる東大寺の大仏と大仏殿が開眼したのは、それから三年後のことでした。

作家
武田 鏡村(たけだ きょうそん)
1947年、新潟県生まれ。作家、日本歴史宗教研究所所長。主な著書に『良寛 悟りの道』(国書刊行会)『一休』(新人物往来社)『「禅」の問答集』(河出書房新社)『名禅百話』(以上、PHP文庫)『親鸞 100話』(立風書房)『親鸞』(三一書房)『般若心経』(日本文芸社)『清々しい日本人』『図解 五輪書』『決定版 親鸞』(以上、東洋経済新報社)ほか多数。
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