目からウロコの仕事力

健全な競争は、心を磨き 創意工夫を誘発する ──「切磋琢磨」の精神

中央学術研究所客員研究員 佐藤武男
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世の中には「競争は格差を生み出すので良くない。弱い人が経済的に苦しむ。平等な所得再分配が望ましい」という人がいます。日本でも近年は「平等から競争へ」と変化していますが、元来競争が好きな国民性ではありません。競争は本当に悪いことでしょうか。

仏教の経典に「競争」という言葉はあまり出てきませんが、儒教の中の四書五経にある『大学』や『詩経』に「切磋琢磨」という言葉が見られます。
「切磋琢磨」とは、切=切る、磋=削る、琢=形を整える、磨=磨くことです。元々は動物の骨、象牙、玉、石などを切り、削り取って形を整え、砂石で磨くことを指していました。この作業には高度な能力、労力、粘り強さが求められることから、仲間と励まし合って研究の成果を上げることや、企業同士が互いに競争して技術を高め、より良いものを作るという意味で使うようになったのです。

                                      
(写真・PIXTA)

象牙や石などの素材を切ったり削ったりして付加価値のあるものに仕上げることは、素材に合った手法で作り磨かねばなりません。新商品開発や人材育成も同様で、素材に合った磨き方や育て方が必要です。仏教的な見方をすれば、自分の心に宿った悩み、驕り、諦め、先入観などを削り落とし、心を整え、きちんと磨いて(正しい心を持ち、徳を積んで)人格を高めるということになります。また競争の結果、他人と差がついてもそれは仏さまから与えられたこの世での役割の違いであり、人間性の高低ではないと説きます。つまり仏さまの前では皆素晴らしい仲間であるという認識なのです。

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