ブックレビュー

【書評】修行の心理学:修験道、アマゾン・ネオ・シャーマニズム、そしてダンマへ 著:石川勇一

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著者は大学で教鞭を執る学者、そして臨床心理士の肩書を持ち、行者を名乗る。
修験道、アマゾン・ネオ(新)・シャーマニズム、そしてミャンマーで初期仏教の修行を修めた。異端と言えば異端だが、修行を進めた結果、学問、観念への執着や期待を手放すことができたという。言葉だけ、理屈だけ、データだけの世界をどれだけ探求しても、真理に至る道ではない、と思い至ったというのだ。

さまざまな神秘体験を披露し、専門の臨床心理と切り結ぼうとしているが、シャーマン、精霊、神々といった存在が登場し、神秘体験が赤裸々に語られる。戸惑う読者も少なからずいることだろう。だが、真剣に修行に飛び込まなければわからない世界が厳然としてあるのだ、と著者は言いきる。

『スッタニパータ』839にはこうある。
師は答えた、「マーガンディアよ。『教義によって、学問によって、知識によって、戒律や道徳によって清らかになることができる』とは、わたくしは説かない。『教義がなくても、学問がなくても、知識がなくても、戒律や道徳を守らないでも、清らかになることができる』、とも説かない。それらを捨て去って、固執することなく、こだわることなく、平安であって、迷いの生存を願ってはならぬ。(これが内心の平安である)」(中村元訳)

学問を否定しているのではない。著者が言いたいのは、学問によっては清浄にもなれないし、悟ることもできない。生きることの苦しみを根本から解決することはできない、ということだ。
プロローグには「普遍的な真理(法・ダンマ)を追求し、法を喜ぶ人は私の友人です。この本はそのような友人のために書きました」とある。評者はそんな行者の誠実さを信じるものである。

〈書籍情報〉
修行の心理学:修験道、アマゾン・ネオ・シャーマニズム、そしてダンマへ
著者:石川勇一
出版社:コスモス・ライブラリー
定価:本体1500円+税
発行日:2016年10月28日発行
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