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「『慈悲の瞑想』をしても夫にイライラします」 答える人:プラユキ・ナラテボー

プラユキ・ナラテボー
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【編集部注】「仏教的カウンセリング」では当ダーナネット編集部が公募した「悩み相談」に解答をしていただいております。
ご相談者の許可のもと編集の上で掲載しています。ご本人の希望で名前は匿名とさせていただきます。

「夫が家事を手伝ってくれなかったり、家に早く帰ってきてくれないときなど、すぐに怒りがわいてきてしまいます。そうしたイライラの感情を静めたくて、相手の幸せや苦しみが取り除かれることを祈る『慈悲の瞑想』をするのですが、なかなか落ち着かず、さらにイライラがますます募ってくることさえあります。どうしたらいいのでしょうか」

質問者さんは、旦那さんの言動が自分の期待したものでないときに思わず湧いてきてしまう怒りの感情に手こずっていらっしゃるようですね。

まず理解していただきたいことは、「自分が求めたものが得られないときに、必ずそこには苦しみが生じてくることになる」という原理を、仏教では「求不得苦」と呼び、普遍的な法則とみなしているということです。

一言で言えば、相手に対する期待や願いがなくなるまで、苦しみは生じてこざるをえない、ということになります。

怒りとは、そうした苦しみ、すなわち、期待や願いが叶わずに満たされない思いや切ない気持ちを相手、または自分自身にぶつけていくことによって生ずる二次的な感情です。ちなみにそうした怒りを自分自身にぶつけると「自己否定」や「自己嫌悪」といったものになっていきます。

ところで質問者さんは、怒りを静めるために『慈悲の瞑想』をされたということですね。確かに慈悲の瞑想は怒りの感情を抑制する効果があるということで、勧めている先生もいますが、実際のところ、あなたのようにすぐに結果が出ないだけでなく、イライラがますます昂じるといった「副作用」に見舞われる方も少なくありません。

なぜなら、慈悲の瞑想は、基本的に心が落ち着いているときに修習するもので、今まさに怒りが湧き起こってきているときに強引にするものではないからです。それというのも、私たちは心に余裕があってはじめて相手を心から慈しむことができるのであって、心が荒ぶっているときに無理に慈しみの言葉を唱えることは、まるで辛い思いをしているときに「相手の幸せを祈りなさい」などと正論を言われて追い打ちをかけられるが如くで、心はますます満たされない思いになってしまいがちだからです。

では、相手に対する怒りが湧いてきたらどのように対処したらよいでしょうか。

本当は、相手を心配していたのに――

作画・鈴木勝美(ざぼん)

 

一番効果がありオススメしたいのは、湧いてきた怒りの感情に対して、まずはそっくりそのままあるがままに気づき、受け止めてあげることです。怒りが生じたときに、自分のそうした心を無視して、いきなり相手の幸せや苦しみが取り除かれることを祈ったり、怒りを消そうと焦ってあたふたしたりせずに、あるがままに受け止めてあげることが先決です。

怒りはあるがままに受け止められると、エスカレートしていく流れは止まって、ホッと落ちついていきます。そうしたら、怒りの元になった一次的感情、すなわち、「家事をしてもらえずにがっかり落胆した」「早く帰ってきてもらえなくて寂しかった、心配した」という気持ちもあるがままに受け止めていくのです。

すると、根っこにあった自分自身の相手に対する「期待」や「願い」とその結果としての落胆や寂しさといった気持ちの因果関係が把握されていくようになります。これを仏教では洞察智といいます。

そうしたらその一連の洞察の結果を相手に素直に相手に伝えてみてください。「あなたに家事をしてもらえると期待していただけに、がっかりしちゃったの」「早く帰ってきて欲しいと願っていたけど、帰ってきてもらえなくて寂しくなっちゃった」という感じですね。

怒って感情的に相手を責める言葉よりも、このように自分自身の心を見つめ、把握し、より奥にある願いや期待を誠実に伝える言葉の方が相手によく伝わります。そしてそのことにより、お互いに冷静になって、自分たちの生活を見直していくことが可能になっていくのです。

プラユキ・ナラテボー

 

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プラユキ・ナラテボー
1962年、埼玉県生まれ。上智大学哲学科卒業。大学在学中よりボランティアやNGO活動に深く関わる。
タイのチュラロンコン大学大学院に留学し、農村開発におけるタイ僧侶の役割を研究。1988年、瞑想指導者として有名なルアンポー・カムキアン師のもとにて出家。以後、自身の修行のかたわら、村人のために物心両面の幸せをめざす開発僧として活動。またブッダの教えをベースにした心理療法的アプローチにも取り組み、医師や看護師、理学療養士など医療従事者のためのリトリート(瞑想合宿)がスカトー寺で定期的に開催されている。
近年は、心や身体に問題を抱えた人や、自己を見つめたいとスカトー寺を訪れる日本人も増え、ブッダの教えをもとにしたサポートを行っている。日本にも毎年招かれ、各地の大学や寺院での講演、ワークショップから、有志による瞑想会まで、盛況のうちに開催されている。

プラユキ・ナラテボー師 よき縁ネット https://blog.goo.ne.jp/yokienn
〈書籍情報〉
「気づきの瞑想」を生きる タイで出家した日本人僧の物語
著者:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,800円+税
発行日:2009年8月
〈書籍情報〉
「気づきの瞑想」で得た苦しまない生き方
著者:カンポン・トーンブンヌム
監訳:プラユキ・ナラテボー
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2007年11月
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