インタビュー

科学者が語る、仏教の魅力――『ロボット工学と仏教』 著者インタビュー(2)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

「森先生から、仏教的な生き方を学ばせていただきました」と語る上出氏

――改めて、上出先生にとって仏教の魅力とは。

上出 はい、生きやすさですよね、やっぱり。いちいち腹を立てなくて済むようになりました。以前は、攻撃的とまではいかないんですけれども、論理的に正確でないものに対してはもう排除するっていう考え方しかできませんでした。でも今は、論理だけで説明できるものではない、違うものも必要なんだっていうことが分かると、人ともすごく付き合いやすくなりました。

森先生に教えていただいたのですが、亀井勝一郎先生の『大和古寺風物誌』(※3)の中に「汝の敵は全て、汝の恩人」という言葉があって、今まで私は、嫌いな人は全員敵だ、と思っていました。それを、何か学べるところがある恩人になり得る人なんだ、と風に頭の中で切り替えができるようになるんですね。それは最初はとても難しいことで、余裕がないとなかなか今でもできないことではあるんですけれども、そういう風に生きていくっていうのは仏教的に生活を送る、実践につながると思うのです。

そういう実践を繰り返していると、そのうち、誰かに腹が立ったりとか、何かにイライラしたりっていうのは、結局は自分の心から生まれて来ているということを反省的にとらえ直すことができるようになります。例えば、学術的な議論する時、修行の足りない私は、どうしても感情的になってしまうことってあるんですね。「私の言ってるほうが論理的に正しいのに、どうしてわかってくれないの」というのが、イライラや怒りになってしまうんです。それが、今いった頭の切り替えを心がけていると、そういう一方的なものの考え方をせずに会話ができるようになって来たと少しは思えますし、とてもありがたいことだと思います。

 

※3 亀井勝一郎1907年(明治40年)2月6日~1966年(昭和41年)11月14日。昭和期の文芸評論家、日本藝術院会員。『大和古寺風物誌』は、昭和18年(1943)刊。左翼文学から退き、日本の古典作品や仏教思想に傾倒するようになった著者が、大和路の古刹を訪ねた感慨を文明批評としてまとめたもの。

――本日は、貴重なお時間をありがとうございました。

森 政弘(もり まさひろ)

1927年、三重県に生まれる。名古屋大学工学部電気学科卒業。工学博士。東京大学教授、東京工業大学教授を経て現在、東京工業大学名誉教授、日本ロボット学会名誉会長、中央学術研究所講師、NPO法人国際ロボフェスタ協会特別顧問を務める。ロボットコンテスト(ロボコン)の創始者であるとともに、「不気味の谷」現象の発見者であり、約40年にわたる仏教および禅研究家としての著作も多い。紫綬褒章および勲三等旭日中綬章を受章、NHK放送文化賞、ロボット活用社会貢献賞ほかを受賞する。おもな著書に『機械部品の幕の内弁当――ロボット博士の創造への扉』『ロボット考学と人間――未来のためのロボット工学』(共にオーム社)、『今を生きていく力「六波羅蜜」』(教育評論社)、『親子のための仏教入門――我慢が楽しくなる技術』(幻冬舎新書)、『退歩を学べ――ロボット博士の仏教的省察』『仏教新論』(共に佼成出版社)等がある。

上出寛子(かみで ひろこ)

1980年、大阪府に生まれる。大阪大学人間科学部人間科学学科卒業。博士(人間科学)。大阪大学特任助教、東北大学助教を経て、現在、名古屋大学特任准教授。日本ロボット学会の安心ロボティクス研究専門委員会幹事、ロボット哲学研究専門委員会委員長を務める。現在は、両委員会が終了し、引き続き、ロボット考学研究専門委員会を立ち上げ、委員長を務める。大阪大学総長奨励賞、日本応用心理学会優秀大会発表賞、日本ロボット学会研究奨励賞などを受賞する。
ロボット工学と仏教
共著者:森 政弘・上出寛子
出版社:佼成出版社
定価:本体2,400円+税
発行日:2018年6月
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る