原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話

ものに依存しない生き方

アルボムッレ・スマナサーラ
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ものごとは心にもとづき、
心を主とし、心によってつくりだされる。
清らかな心で話したり行なったりするならば、
福楽はその人につき従う。
──影がその体から離れることがないように。

                   「ダンマパダ」(2)

わたしたちの人生とは、荷車を引いて生きているようなものです。その荷物とは、仕事や家庭や生きる重さです。同じ重さの荷物であっても、人によって、あえぎながら荷車を引く人もいれば、楽々と荷車を引く人もいます。この違いはなにか。それは執着です。執着が強いと、巨大で重たい荷車を引いているような人生になります。執着の少ない人は、荷物が職場や家庭であっても、それらは影のように重さを感じることはないのです。

俗世を離れて出家しても、心の問題はすべて解決するわけではありません。ただ捨てただけでは、心の問題は解決しません。家族や財産を捨てたとしても、いつもそのことを思い起こしているのであるならば、それらは捨ててはいないといえます。まだ、それらを背負っているのです。

宗教団体などにお布施をして、あとで「だまされた」と憤慨する人がいます。それは、たくさんお布施をすれば見返りに御利益があると思っていたからでしょう。しかし、それは「布施」ではありません。捨ててはいないのです。

布施とは「ほんとうに捨てること」「見返りを期待しないで捨てること」です。むしろ、「喜んで捨てること」なのです。

仏教を実践すると、楽しみがなくなってしまうと思うかもしれませんが、じつは損することは一つもないのです。家族がいてもいい、仕事をしていてもいい、お金があってもいいのです。大切なことは、ものごとに執着しないということです。そうであれば、重たい荷車を引くような生き方ではなく、影が体のあとをついてくるような軽やかな生き方ができるのです。

*  *  *

「ダンマパダ」とは、「真理のことば」という意味です。わたしは「お釈迦さまのことばにいちばん近い経典」と言われるパーリ語の「ダンマパダ」を日本語に直訳し、一人でも多くの人にお釈迦さまの教えを伝えたい、と願っています。
お釈迦さまの教えを「一日一話」というかたちでまとめ、それぞれにわたしの説法を添えました。大切なことは、お釈迦さまの教えを少しずつでも実践することです。そうすれば、人生の悩みや苦しみを乗り越えていくことができるでしょう。

アルボムッレ・スマナサーラ

*アルボムッレ・スマナサーラ長老(**Ven. Alubomulle Sumanasara Thero**)*
テーラワーダ仏教(上座仏教)長老。1945年4月スリランカ生まれ。13歳で出家得度。国立ケラニヤ大学で仏教哲学の教鞭をとる。1980年に国費留学生として来日。駒澤大学大学院博士課程を経て、現在は日本テーラワーダ仏教協会で仏教伝道と瞑想指導に従事する。他にNHK教育テレビ「心の時代」出演、朝日カルチャーセンター講師などを務める。『ブッダの幸福論』『無常の見方』『怒らないこと』(和文)『Freedom from Anger』(英文)など著書多数。
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一話
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税
発行日:2003年10月
原訳「法句経(ダンマパダ)」一日一悟
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,100円+税
発行日:2005年11月
原訳「スッタ・ニパータ」蛇の章
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:佼成出版社
定価:本体1,400円+税
発行日:2009年6月
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