インタビュー

ティク・ナット・ハン「マインドフルネス」が上陸した日 最終回

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ワークショップハウス「ゆとり家」を主宰し、ティク・ナット・ハンが創設したプラムヴィレッジ正会員として、マインドフルネスを日本に広める島田啓介氏。1995年にティク・ナット・ハンの来日ツアーの世話人の一人として活躍し、日本のマインドフルネス黎明期でその発展に尽力。現在は精神福祉士やカウンセラーとして、マインドフルネスの手法を生かしたワークショップを展開、指導に当たっている。

このインタビューでは、今まであまり顧られることのなかったティク・ナット・ハン師「気づきの瞑想」日本上陸の経緯や、マインドフルネスとともに歩んだ氏の青春時代、そして現在、「ゆとり家」の活動の様子などを5回にわたって語ってもらう。今回は、その最終回。

「Zen 2.0」の「すべてと和解するマインドフルネス」と題されたセッションで講師を務める島田氏さん(2018年9月8日土曜日 於いて鎌倉・建長寺 得月楼)

——「ゆとり家」では、カウンセリングや瞑想会、そして講演などの活動が行われているようですが、そこではどんなことを教えていただけるのでしょうか。講演の場で、ティク・ナット・ハン師のメソッドによるマインドフルネスのご指導など、実践的なことも教えていただけるのでしょうか。

私が一方的にお伝えする形ではないのですが、講演会などでは、実際に瞑想の実践もまじえて体験していただいています。マインドフルネスは、自分自身の直接体験なしには意味をなさないので、「教える」よりも「体験していただく」よう心がけているのです。というのは、「心のからくり、その対処の仕方」というようなテーマでお話だけしても、講演を聴いた方が、会場を一歩離れると、いつもの日常、環境に戻られるわけです。そこにはたとえば家族がいて、場合によれば小言を言われるかもしれない、散らかっている部屋に戻って「明日からまた仕事だ」という現実に引き戻されたりもします。

講演や講座などでは、「楽しい」ということを大事にしているのですが、会場で、「いい話だったな」「楽しかったな」と感じても、会場を離れたら日常、現実に戻らざるを得ない。精神的な病を患っている場合には、「病気である」自分にあらためて向き合わざるを得ない。そういったストレスに苛まれる現実に、それぞれが帰っていくわけです。ですから私は、講演を聴いてくださった方々が、日常生活において引き続き実践できる方法をお伝えしようと工夫しています。

企業などの講演依頼は、複数回にわたっての連続講座がめずらしくありません。その場合は課題を出して、日常や職場で実践していただき、その体験を次回でフィードバック、参加者同士で共有することが可能となります。ところが一回限りの講演ではそれができませんから、私としてはぜひ「お持ち帰り」できて、日常に生かせる実践方法をお伝えするようにしています。原理も説明するけれども、どうすればふだんから使えるようになるかを、「みなさん、ここでやってみましょう」という形で実体験していただくのです。

そこで一番手っ取り早く、大切なポイントが「体」です。

「悩む」というのは、頭の中で考えることでしょう? その内容に突っ込んでいくから、抜け出られなくなります。内容に飲み込まれてしまって、現実とのギャップでストレスが生じるわけです。その内容であるストーリーは、自分自身で創作しています。たとえば体は〈ここ〉にいるのに、ストーリーを作れば〈あちら〉にも行くことも出来る。そのストーリーは、じつは自分のアタマ(頭脳)でクリエイトしているんだ、ということに他なりません。

シンプルに言えば、心を軽くする、楽になるためには、まず、その事実に気づくということが必要となってきます。——自分は今、頭の中でストーリーをクリエイトしているのだ、と。

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