アルボムッレ・スマナサーラ長老インタビュー

ストレスを生み出す「貪瞋痴」 その4【最終回】

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――人の役に立ちたいというのも、ある種、欲なのではないでしょうか?

欲にしてしまう事もできますよ。でも、欲にしてしまうと、その人は上手に仕事をすることは出来なくなるでしょうね。これは法則ですから。本来、生命というものは、他者に助けられて生きているものなのです。

私は体重65キロです。このうち6キロぐらいは微生物と言われています。ということは、私の幾ばくかの部分は、別な生命ということになりませんか。この微生物――腸内細菌やミトコンドリアという他の生物が居なかったらどうなるでしょう。――終わり、私の人生は。

日本テーラワーダ仏教協会・アルボムッレ・スマナサーラ長老

ミトコンドリアは細胞の中にいる生命体です。ミトコンドリアの数の多い人はとても元気で、オリンピックに出場する選手の中にもけっこう含まれるようです。ですから、オリンピックで金メダル取った人は、自分の細胞、40兆の細胞の中に住むミトコンドリアに感謝しなくてはなりませんね。

他の生物によって、そのおかげさまで生命体は成り立っている。他の生物が他の生物の役に立っている。そういうことなのです。それは、欲でもなんでもなく、法則なのです。そして、役に立ってもらった分、こちらも借りを返さなければなりません。借りを返すことは欲にはならないでしょう。見方次第なのです。自我があると、「俺は役に立っている」と天狗になる。しかしその人は、進化法則によって潰れます。

――オリンピックのお話が出ましたが、アスリートなど、人に勝って頂点に立ちたいという強い思い、闘争心がなければ、なかなか勝てないと思うのですが、闘争心と貪瞋痴[とんじんち]の瞋(いかり)の違いはなんですか?

くり返しますが、貪瞋痴は自我なんです。だから、個人が世界に向かって闘争しても、あっという間に負けて潰される事が決まっているのです。これは進化法則なのでどうすることもできません。だから心の用い方というか、ポイントとするところが間違っています。

画像・AdobeStock

相手は世界や他者では無いんです。自分が自分と闘わなければならないのです。自分との闘いに勝てなければ負けます。それが法則です。自分の欠点、足らない間違っているところを常にチェックして、自己を見直すことがアスリートの務めとなるのです。対戦者に対して、怒りや憎しみを抱くのではなく、どんな方法で挑まれても、それに対してどう対処していくべきか、それを考え日々練磨する。それが修行なのです。自分と向き合い自分と闘う。そう考えるとき、為すべきことは、貪瞋痴の瞋(いかり)とはまったく次元も性格も異なることに気づくでしょう。

――ところで、貪瞋痴がない状態を指す「不貪[ふとん]不瞋[ふじん]不痴[ふち]」という反意語的仏教用語がありますが、具体的な行動指針として、これらはどのように実践すれば良いでしょうか?

答えは単純です。貪瞋痴をネガティブ・エネルギーとみなして、それをポジティブに入れ替えるのです。なぜ、仏教用語で貪瞋痴の反対に、「不」の字を入れて「不貪・不瞋・不痴」にしたかと言うと、「不貪・不瞋・不痴」にはリミット(限度・限界)がないからです。一方、貪瞋痴はネガティブだから、自己破壊して死んで終わりという限界、リミットがあるのです。

「不貪・不瞋・不痴」にリミットがないというのも、成長する場合、解脱へ向けて限りなく成長し続けることができるからです。生命の次元を飛ばして、それらを乗り越えることすらできるのです。ですからアンリミテッドなのです。[むさぼ]りにリミットがあって、不貪[ふとん]にはリミットが無い。だから、不貪と「不」の字を当てたのです。ここで[むさぼ]りの反対を「施し」とすると、アウトです。施しには数量的な限界が成立しますから。献身と貢献。これもそう言ってしまうと限界があるのです。

では、「不貪・不瞋・不痴」。それを実践していくにはどうすればよいでしょう。まず、生命の役に立つことを考えてみてください。家族や会社の仲間。もうちょっと広げてみましょう。心の中では、いくらでも広げることができるでしょう。自分のはたらきが、人類の役に立つように考えて行動できるのが、私たち人間なのです。さらに人間界だけではなく、他の動植物、自然界に対しても、同じく役に立つようにするためには、どうしたらよいですか。

ガスも電気も必要な量しか使わない。水も必要な量しか使わない。水はできるだけ汚さない。空気も汚さない。いくらでも出来ますね。家中の電気をつけないで、必要な量だけ。それはケチではありません。それを心が広いと言うのです。そんなふうに貪瞋痴を無くしていくのです。

もうひとつ、「不貪・不瞋・不痴」の実践で大切なことがあります。貪瞋痴はネガティブ・エネルギーというお話はいたしました。これをポジティブ・エネルギーに変換してゆくのです。

自分で自分にこう問いかけてみてください。「私は、今、幸せ?」「今、楽しい?」と。「この状況は、本当に楽しい?」「一瞬であっても、楽しくない、不幸な生き方。本当にそれでいい?」と。そう自らに問うたら、「一瞬たりとも、楽しくない人生は過ごしません」と誓って心を見つめ、ネガティブからポジティブ・エネルギーに切り替えてゆくのです。するとストレスというものはなくなっていきます。心の法則というものは面白いものです。観察して、気づいたらストレスは無くなってしまうのですから。

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