アルボムッレ・スマナサーラ長老インタビュー

ストレスを生み出す「貪瞋痴」 その4【最終回】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

――仏教といえば、「慈悲」ということばを思い起こすのですが、慈悲とストレスの関係について教えていただけますか。

とくに「慈悲の瞑想」は、自我の悪性を消してしまう効果があります。結果、ストレスは消失するか、もしくは軽減します。ストレスは自我がつくるものだとすると、自我(の悪性)が悪いことを出来ないようにしてしまうのです。

これは生物学的ストレス要因(ストレッサー)であるウィルスが身体に侵入して、細胞を攻撃しようとしても、免疫力がはたらいて、その能力をすでに奪っているのと同じ状態です。慈悲によって自我の悪性が抹消され、ストレスからの攻撃が遮られています。ですから、たとえウィルスが侵入しても、攻撃、繁殖する能力はありません。ウィルス(ストレス)は消滅するしかないのです。

画像・AdobeStock

このように、慈悲の心を持つと、我を張るということがなくなります。相手の気持ちも考える。他者にも幸福であって欲しいと願うようになります。それがすばらしい修行になるのです。そして、いよいよここからがスタートです。智慧が自動的についていきます。無知がなくなります。

こうして、自我はどうすることも出来なくなって、無力化していきます。とても心が広く明るくなります。他者の協力も得られるし、不思議となんでも上手くいくようになります。自我さえなくなれば、慈しみがそういうふうに働いていくように出来ているからです。

難しい、手強い仕事があって、「ストレスが溜まるなあ」と思った時でも、慈しみを心に注入しておくと、ストレスは消えてなくなります。「これはたいへんなことになったぞ」と思うこともあるでしょう。でもその瞬間、「『たいへん』なんて言っている場合ではない」。「私がしっかり仕事をすれば、みんなが助かるんだ。それなら、やりましょう!」と前向きになれれば、すでにストレスは消えているのです。

奇跡なんてみんな嘘です。みなさんが通常耳にしている奇跡、呪文の類なんて〝いかさま〟です。しかし慈悲だけは、本当の唯一、最高の呪文、奇跡なのです。なぜなら、一瞬にしてものの見事に心を改善、活性化してしまう力をもつからです。

進化論というのはヨーロッパ人が発見した、生命体の論理です。生命、有機体の進化は、他者を殺すことで成り立ちます。しかしそれは有機体の進化だけの話です。仏教が説く「心の進化」は、逆の法則で成り立っています。

逆の進化とは、思いやりをもって手を差し伸べること、やさしさ、共存です。有機体の進化というのは、競争です。しかし心の中だけは違います。逆の進化法則に則っています。そんな理由からきっと、世間は仏教の話はあまり聞きたがらないのでしょう。なかなか理解してはもらえません。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る