ブックレビュー

【書評】ブッダの瞑想と脳科学 著:アルボムッレ・スマナサーラ

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不満を口にしたり、怒ったりするのはやめよう——そう決心しても、つい心に沸々と湧き起ってくる感情に流されてしまう。心を清らかに保とうと意識していても、過ちを繰り返してしまうのはなぜだろうか。本書は、そうした葛藤に応えてくれる一冊である。

過ちを繰り返す原因は、「原始脳」と「大脳」という2つの脳の機能の関係にあった。見る・聞く・考える・意志に基づく行動・善し悪しの判断・価値観など、他の動物よりも発達した機能性を備えているのが人間の「大脳」である。その「大脳」を働かせるために指令を与えているのが「原始脳」だ。問題は、この「原始脳」が、〝生きたい(死にたくない)〟という〝存在欲〟を判断基準に、感情のおもむくままに「大脳」に指令を与えてしまうことにある。「決して怒るまい」と自分に言い聞かせても、怒りを感じた瞬間に、理性を押しのけて行動が先行してしまうのだ。

理性とは裏腹に与えられる指令に対し、人間は自分の感情や行動を制御することはできないのだろうか。本書でスマナサーラ長老は、ブッダが説く瞑想こそが、唯一の対処方法であると説く。さらに、脳科学だけでは、苦の根源となる自我を超克することはできないと喝破する。

ご注意頂きたいが、本書は脳開発の具体的な方法を記した本ではない。人間の脳はどのように働いているのか、心とは何か、自我を超克するとはどのような状態をいうのか——瞑想の実践に入る前に、脳と心の働きを知る入門書である。具体的な実践については、『自分を変える気づきの瞑想法』(サンガ)を併せてお読み頂きたい。

〈書籍情報〉
ブッダの瞑想と脳科学 心を一気に進化させる仏教の脳開発プログラム
著者:アルボムッレ・スマナサーラ
出版社:サンガ
定価:本体900円+税
発行日:2018年12月1日発行
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