通勤時の電車内に、疲れた顔のビジネスマンの姿があふれている。小競り合いから口論をはじめる人たちの姿も目に付くようになった。多くの人が、忙しさにかまけて心を亡くしてしまっているのだろうか……
そうした、ストレスを抱えて不寛容になっている現代人にこそ、仏教が役立つと著者の齋藤孝さんは説く。
本書には、日々の生活に活かせる仏教の教えの数々が、齋藤さんの平易な言葉で綴られている。古今東西の本を読み、あらゆる物事に精通する齋藤さんの言葉には、何事にも捉われない心のもち方を説く仏教の鷹揚さが表れている。読むだけで心が穏やかになるのだが、齋藤さんは日々の生活の中で、修行として仏教を実践することを勧めている。
例えば、呼吸と心を整える瞑想を通勤途中の電車内や寝る前の時間に取り入れたり、常に上機嫌にふるまい、怒らないように心掛けたりすることなど、意識すれば今日から始められることが多く紹介されている。高校生だった齋藤さんが、厳しいプレッシャーに打ち勝つためにブッダの呼吸法を取り入れたエピソードや、現在も大学教授としての仕事で意識している慈悲の心などは、身近に感じられて興味深い。
終盤には、仏教伝来の歴史的経緯とその背景、現代人が仏教を体系的に理解するために読むべき入門書の解説が綴られ、教養として仏教を楽しむこともできる。本書は、仏教に興味をもって学んでいる人にも、初学者にも大きな発見をもたらす一冊である。