ブックレビュー

【書評】奇跡をひらくマインドフルネスの旅 著:島田啓介

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「マインドフルネス」の提唱者として世界的に著名な禅僧ティク・ナット・ハン師。その多くの著作の翻訳者として知られる島田さん初の自伝的著書です。

日本国内で「生きづらさ」を感じていた青年・島田さんは、自分の本来「居るべき場所」を探して、1992年、中米パナマからワシントンD.C.まで7,500キロを歩く「平和と命のための諸宗教合同巡礼」に参加します。その旅の途中、同行者から借りた一冊の本が、ティク・ナット・ハン師との出合いでした。親交の深かったキング牧師からノーベル平和賞に推薦されるなど当時のアメリカではダライ・ラマに並ぶほどの有名人でした。

帰国後、ティク・ナット・ハン師の来日招聘グループに参加。1995年の「阪神・淡路大震災」ならびにオウム真理教による「地下鉄サリン事件」の混乱の中、師の来日が危ぶまれるも招聘委員会の中心人物の一人として活躍。以来、日本での「マインドフルネス」の推進に、常に第一線で活躍してきた人の一人です。「マインドフルネス=気づき」という訳語を創出した翻訳チームの一人でもあります。

「ここではないどこか」を求めて世界を放浪し、内省を続ける島田さんの声は読む者の胸に迫ります。ようやく戻ってきた時期は「バブル経済」崩壊後。以降、日本は成熟(低成長)期を迎えます。島田さんにとっても、それは遅れてきた青年期の終わりと重なります。

終盤、生涯の師とするティク・ナット・ハン師の教えに導かれ、「ここではないどこか」へではなく「今ここ」に辿りつきます。島田さんにとって「今ここ」とは、神奈川県にある相模川が作り出した扇状地の小高い丘の上にあるマインドフルネスを中心としたワークショップ・スペース「ゆとり家」でもあるし、そして「歩く瞑想」で一歩一歩踏み出す「今ここ」も、またそうです。日常そのものが、驚き(wonder)にみちた「ワンダフル(wonder+full)」な世界へと変貌します。世界を経巡った島田さんのことばだからこそ説得力があります。

本書は「生きづらさ」を感じる一人の青年の高度経済成長期から成熟期へ移行する「時代の証言」ではありません。日本にマインドフルネスが定着するきっかけとなった「出来事=歴史」の記録です。本書を読むことで、読者は日本におけるマインドフルネスの黎明期に立ち会うことができることでしょう。全てはここから始まったのです。

*「ダーナネット」では、過去に行われた島田啓介さんのインタビューをお読みいただけます。
https://dananet.jp/?cat=72

〈書籍情報〉
奇跡をひらくマインドフルネスの旅 ありのままの自分に帰り豊かに生きるための20のレッスン
著者:島田啓介
出版社:サンガ
定価:本体2,000円+税
発行日:2019年6月25日発行
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