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「日常社会で広がるマインドフルネス」プラユキ・ナラテボー × 山口 伊久子 Zen 2.0レポート(7)

プラユキ・ナラテボー師・山口伊久子さん
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「一回、鐘を招いてそれから始めたいと思います。皆様もよろしかったら瞼を閉じてただ鐘の音だけに耳を傾けてみましょう」。

ティンシャ(チベタンベル)の音が静かに会場に響きます。聴衆の緊張をほぐすため山口さんが鐘を一打。「では、ゆっくりと目を開いていきましょう」とマイクを使わない生の声だけで、山口さんのパートがスタートしました。

「ここには坐禅をやられている方、瞑想をやられている方、いろいろな方がいらっしゃられると思いますが。どのような時に瞑想をされているのでしょうか? どうして瞑想を行われているのでしょうか?」と山口さん。

「私がマインドフルネスの実践会を始めた2012年頃は、マインドフルネスが一般的にあまり知られていなかったので『マインドフルネスって何?』『マインドがコントロールされてしまうの?』ですとか『瞑想って、ちょっと怪しい感じ?』と思われる方が多くいらっしゃいました」。

また、日常でおきるストレスやメンタル不調で「ストレスが溜まっている、落ち込むことが多い」と感じられる方にとって、カウンセリングやクリニックは日本ではまだ敷居が高く、ひとりでストレスを貯めてしまう」という人が多かったのだそうです。

山口さんは、「ストレスケアやヘルスケアとしてマインドフルネスの実践会を行いたいと思いました。私自身はクリニックなどに勤めているわけではないのでマインドフルネスをうつ病などの疾病を抱える方の治療を行うというよりメンタルヘルスの予防として、紹介する方が良いだろうと考えたのです。先ほどもお話をしたように、少し前までマインドフルネス瞑想がまだ怪しいと思われていましたので、最初はマインドフルネス・ヨガから始めて、なにかお稽古事の一つとして楽しみながら参加していたら、それがセルフケアに繋がった。みたいになれば良いなと考えていました」。

そのうちに、「あれよあれよという間にマインドフルネスや瞑想がメジャー」になってしまい、現在では、マインドフルネス瞑想を求めて山口さんの所にいらっしゃられる方が増えているとのことです。

山口さんは、ご自身の目指していることについて、このようにおっしゃられます。「私が紹介をしているマインドフルネス瞑想は、どこか特別に場所を設えて、わざわざ時間をとってやるというものではないです。究極は、今この時、今、必要な時に、デスクで仕事をしている時でも、休憩中でも、電車の中でもできるような瞑想にたどり着いていただけたらいいなと思っています」。

また、山口さんの行われている「瞑想」の実践会は、会社帰りの方が気軽に通っていただけるようなものや、日常の中で行う食べる、飲む、歩くという行為をマインドフルに行う「食べる瞑想」や「歩く瞑想」をプログラムに取入れた「一日リトリート」があるそうです。

プラユキさんも話されていた、「マインドフルネス」に「認知行動療法」の要素を取り入れた形でのアプローチである「マインドフルネス認知療法(MBCT:Mindfulness-Based Cognitive Therapy)」の8週間プログラムも定期的に行われているそうです。

「MBCTは、もともとうつ病の再発予防のために開発をされた科学的実証のあるグループ療法ですが、現在では、摂食障害や健康不安などさまざまなかたちで応用をされています。認知の修正を目的とした認知行動療法とあるがままを大切にするマインドフルネスという2つのアプローチを組み合わせていることが特徴です。

うつ的思考の反芻パターンから抜け出すことを目指し、プログラムの体験を通して、イライラやネガティブな思考に巻き込まれず思考から距離をおくスキルを身に付けるようになりますが、堂々巡りをする思考は、何もうつ病の方だけではなく、私たち誰にでも起こることです。私は、様々なストレスを抱えた社会人の方に向けこころのトレーニングとして、このMBCTの8週間のプログラムを行っています。

企業や市民講座などでの出張講座も広く行っています。
プラユキさんの瞑想会や個人面談には、悩みや苦しみを抱えている方もいらっしゃるとのことでしたが、山口さんの「瞑想」実践会に参加されるのはどのような方なのでしょうか。

「一般の社会人を対象とした瞑想会なので本当にいろいろな方が参加されます。ストレスを抱えている方、お仕事の中で生かしてさらにパワーアップしたいという方や臨床心理士、医師の方もいらっしゃいます。いろんな立場の方がそれぞれの思いの中で参加されるのがグループ実践の面白いところです。実践会ではご自身の立ち場やバックボーンは関係ありません。ただこの場で瞑想を体験して、そして今の体験を振り返る、ただそれだけです」。

そして、「一日リトリート」では、九州や四国などの遠隔地からわざわざ参加してくださる方もいるのだそうです。成田空港からメールが入り、「ドイツから来ました。これから実践会に直行します」という方もいたそうです。

「海外の方が参加されると面白い体験の振返りがうかがえます。文化的な背景が違うと気づきや感じる部分にも違いがあり、私たちの気づきは自分自身の経験に基いているという事が本当によくわかります」。

「一日リトリート」や「実践会」で山口さんが大事にしていることのひとつは、「五感を感じてもらうこと。実践会では、今この瞬間の五感や五感を超えた身体の感覚、その時の気持ちや感情を丁寧に観察してもらうことを行っています。例えば、お昼の実践会などでは、庭を観ながら、周りの音を聞きながら30分位かけて抹茶一杯を喫んでいただきます」。山口さんは、その際、参加された方にどんなところで味を感じたか、どんな身体の動きがあったかなど感想を聞かれるのだそうです。

「身体のどの部分で苦味を感じているかを気にしたことがまったくなかった」とか、「飲み物を飲み込むごっくんと喉が動く。飲み込むときに身体に何か働きがあることをまったく感じたことがなかった」などとおっしゃられる方が多くいます。

「毎日のひとつひとつの感覚や動作を改めて見つめなおす作業を行うことで、自分を大事にしていなかったな、こんなことを友達に共有したいな、と思い返される。そんなことが自分に対して思いやりのこころを育むことにつながると思っています」と、山口さん。

プラユキさんも話されていた「はまりこみ、抜け出せない人」、「今ここに意識を向けることが難しい人」については、山口さんはこのように伝えるそうです。「〝今〟にずっと居なくてはいけないわけではないよ。私たち人間だもんね。いろんなことがあるから、今に意識を向けられないのは当たり前。それよりも、意識を向けたいところから離れていることに気づいたら、そのことを批判したり、悩んだりせずに、ただもとに戻す。それを繰り返し行う。離れたことに早く気づくようになれば、早く戻るようになる。そうすると、今ここにいる時間が長くなっていくんですよ」。

「もし、なにやっているのだろう、どうして他に気が散ってしまうのだろうと、意識が離れたことを気に悩むとそのことに執着して、そのことに巻き込まれ続けてしまいます」。

「でも、どうして。どうしてって思い悩む。たまにはそうしていたい時ってあるよね。そんな時は、そうしていても良いんだよ」とも話されているのだそうです。「そのような時に重要なのは、その選択肢を自分で意図的に選んだことに気づいていることなんです」と、山口さん。

また、企業研修で山口さんが行っていることを紹介して下さいました。

「企業研修では、デスクでもミーティングの最中でもできるマインドフルネスをトレーニングとして紹介しています。例えば、ミーティングの時にいろんな人が話している中で、今、どんな話が行われているのかな? 今の自分の注意はどこにあるのかな? と、自分の思いや感情というフィルターを外して観察することをマインドフルネスの体験ワークを通じて行っていただきます。そうすると、今まで思い込みで他の人の話を聴いていたり、勝手に推測して聴いたつもりになっていたことに気づかれます。そんなことに気づくのもマインドフルネストレーニングのひとつなんです」。

「マインドフルネスがすべて正しいということでもなく、今の自分を否定することではない。マインドフルネスというもうひとつの引き出しを作ることが大切ということをお伝えしています。引き出しがひとつだけだと、なにかあった時に、自動的に(気づかず)いつもの習慣的な対処を行い続けます。マインドフルネスというもうひとつの引き出しができれば、その時の自分に必要などちらかを選ぶことができるようになれるのです」と山口さんは語られました。

山口伊久子さんによるガイダンスのもとマインドフルネス・ヨガの大地を感じるグラウンディングを体験する参加者。

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